グギュ……グルル……ギュゴオォオオオオ……

苦しみもがく獣の咆哮に似たその音がひっきりなしに腹から響く。
冷や汗が体中から噴き出していた。
腹の圧迫感が酷い。
横向きになればせめて楽になれるかと思ったが、身じろぎした瞬間、男の指が深い場所を酷く抉ったので叶わなかった。
呼吸が次第に浅く早くなり、酸欠で頭がくらくらしてくる。
ぐじゅぐじゅと眼鏡男の指は俺の排泄器官を弄りまわし、時折漏れだす液体の感覚に括約筋が緊張する。
力を抜いてしまえば楽になれる、けれどそうしてしまえばもう後戻りができないと無意識のうちに理解していた。
「んー、五分か……まあハジメテだし、いいかな」
男の言葉にこの悪夢のような時間がたった五分だったのだとわかった。
もう数十分経過していたように感じていたのに、たった五分……それだけの時間でこの男は俺の根底を砕くことを可能にした。
「それじゃあ、起きて」
「う…………」
無理だ、腹の圧迫が酷過ぎて身を起こすことなどできない。
首だけもたげ、視線でそれを訴えるが眼鏡男はうすら笑いを浮かべたままもう一度言う。
「起きて、と言ってるんだよ……僕の手は君のオシリを栓してあげてるからね、片手じゃ起こしてあげられないんだ。ほら、頑張って」
「ふぉうふぇ……」
「んー?」
トイレに行かせてと言いたいのに、マウスピースが邪魔をする。
きっと男は俺の思いをわかっていて、それをあえて無視しているのだろう。
空いた手でカラのバケツを引き寄せた男に、最悪の結末が見えて愕然とした。
否、今までも十分に絶望していたのに、こいつは俺の予想など遥かに超えた要求をしてくる。
「ほら、早くしないともれちゃうよ……おしりがヒクヒクしてきた。ぶじゅーってお漏らししちゃってるね、しろー君は赤ちゃんじゃないのに恥ずかしいでちゅねー」

もう、全てが限界だった。
ぽろりと涙が零れる。
その涙の中には、俺の中に残っていたちっぽけな意思が混じっていたらしい。
頬を伝い、床に染みを作る頃には身体を起こそうとしている自分がいた。

のろのろと起き上がる、何度も腹の圧迫に負け、ぶじゅ、ぷぎゅるる……と嫌な音を立てて漏れ出るものがあった。
「う…ぐ、ふぅぅ………」
「あ、ゴメンね。お口がソレだと喋れないよね」
「う───ガ、ハッ……ぁ、あ」
「さあ、ここに掴まって……しろー君の中をキレイキレイしようね」
膝をつき埃の積もったデスクの端を掴まされ、腰を突き出し気味にした中腰姿勢のままナカを抉られる。
きつさも限界を超えるとマヒしてしまうのだろうか。
頭がキンと冷えるような感じがして、全身に鳥肌がたった。
「や……めろ」
「ダメだよ、そんなこと言っちゃあ。しろー君のココが早くキレイになりたーいって言ってるんだからね!」
「やだ、だめだそれ……!」
男の指が根元まで突き入れられ、刺激にそこに力を込めた瞬間───引き抜かれた。

不意の喪失に水っぽいものが噴き出すのがわかった。
反射的にそこを引き締めたけれど既に限界がきていたことはわかっている。
真っ赤に膨れたそこが何度も大きく痙攣して、それでも我慢しなきゃと無駄なことを考え、けれど……だめだった。

「あ…ぅあ……ぁああっ」
ぶひゅう、と汚らしい音がした。
酷い頭痛と耳鳴り。
けれど張りつめていた腹が見る間に引っ込んでいくに従って、辛苦から解放されたことに身体が弛緩していく。
デスクにしがみついていた手が滑り、臀部をバケツに乗せた四つん這いの姿勢になる。
眼鏡男は俺の横にしゃがみ込み、尻を覗き込みながら子供のような歓声を上げていた。
「うわあ!すごいねぇ、しろー君。ばっちいのがいっぱい出てきてるよ」
でも一回だけじゃキレイにならないよね、そう続けられた言葉はもうわかっていたことだった。
あの液体を入れ終えた後に「もう一回飲ませてあげる」と言っていた。

耳鳴りが遠くなる。
べちゃ、ぼとん、ぶちゃ───なんて耳障りな音なんだろう。
汗が目に入って染みた。
背中が震えた。
得体の知れない感情の高ぶりで、嗤いが漏れた。
涙で滲む視界……噴き出す程の勢いはなくなったものの、未だ断続的に落ちていく排泄物交じりの液体。
汚らしい色彩はバケツに収まりきらずあちこちに散っていた。
眼鏡男はその様をうっとりと見つめている。
さあ、今なら逃げられるぞ───どこか遠くでそんな声が聞こえた気がした。
逃げられるだって……?
どうやって逃げろって言うんだ、四肢は震え己の身体を支える役割すら怪しいというのに。
むっとたちこめる悪臭。
逃げ場があったとして、どうしろというんだ……逃げる気力などとうに失われているというのに。

「う……っ、え…ぅ────ッ」
ぼた……ぼた……。
それは尻を伝い落ちるものだろうか、頬を滑った大粒の涙だろうか。
「うぁああああああああ!」
コドモのように泣きじゃくる俺の頬を、眼鏡男は汚物で汚れた手で撫でてきた。