内臓から底冷えするような、悪寒。
再度逃げ出そうと腰を浮かしかけて、今度は正面からパンク男に羽交い絞められた。
「悪いこた言わねェからさァ……逆らうな。殺しは趣味じゃねェんだ」
ぼそりと囁いた、暗い瞳が俺を突き刺す。
腕を外そうとしても、男の腕はびくともしない。
トシの割りに体格はやや小さめで、武道を嗜んでいるといっても所詮はルールの箱庭の中のハナシ。
「はうぁへ……」
男達は嘲う、醜くもがく俺を見下ろしながら。
放せという言葉はマウスピースのせいでうまく発音できていないが、男たちには正しく伝わっているようだった。
けれどその言葉を理解して尚、見下ろす表情は歓喜に満ちた笑み。
「───ッ」
喉が震えた。
ロープを容易く断ち切った黒光りするカッターを弄びながら、眼鏡男の手が俺の服にかかる。
ビッ、と音がしたのは最初だけで、撫でるが如くの軽さで着ていたシャツとインナーを次々と切り裂いていく。
はらりはらりと布地が落ちるごとに肌寒さと、刃が皮膚を掠める痛みが上半身を覆っていく。
「や……」
「ぴっちぴちのジーンズも、これで切り裂いてあげようか」
きっと血がいっぱい出ちゃうね───そう笑って男はカッターの刃でカツカツとジーンズのボタンをはじいた。
「───ここまで手伝ってあげたんだ、もう一人で脱げるよね」
有無を考える間も与えない断定口調に、俺は……頷いた。
パンク男の拘束が緩んだが、得体の知れない男達の視線に俺の抵抗は萎えていった。

「そう、良い子だ……」
眼鏡男の気色悪い視線を全身に浴びながら、俺はそれでも指示された姿勢を崩すことができない。
死への恐怖は元より無い。
けれどその後に待っていたのは、屈辱的な行為を他人に知られることに対する恐怖。
己自身を良いように扱われることに対しての嫌悪感と抵抗感は、男達の異常さの前には無力なものでしかない。
たとえ羞恥に耐え切れず命を断ったとして、その後もし誰かにこの身が見つかったなら……身元が特定されれば被害者として全国に名前が知れ渡るだろう。
そしてもしも、何があったのか知れたら───。
醜く生にしがみつく自分が情けないけれど、抵抗する気を一度失ってしまうともうどうにもならなかった。

右頬がザリザリと床の砂と擦れ合う。
拘束は既に無かったが、両手は顔の横に縮こまってかたまっている。
ただ一つの衣服さえ身に纏わず、高くあげた腰を男が撫で回している。
萎縮したままのそれを触れられて悲鳴を何度飲み込んだだろう、そんな俺を男たちは笑いながら弄繰り回す。
「綺麗な菊型だと思わないか?ああ、キミからは見えないよね」
くにくにと揉まれる排泄器官、時折湿った感触が這い回るのは眼鏡男の舌。
察しの悪い俺でも気づいている、こいつらの目的は俺を性的に陵辱するつもりだ。
けれど……ただ同性愛的な行為とは異質の雰囲気がある。
お世辞にも堅気とは言えない気配が、男たちのアブノーマルな嗜好を如実に表している。
「ねえ、なんとか言ったらどうだい?」
「キェハッハハ……僕チャンは泣いちゃってるもんなぁ、こわぁいお兄サン二人に囲まれちゃあ……ヒャハハハ!」
「なかなかほぐれないんだよね……でも嬉しいよ、初めてなんだろう?」
そんな経験があってたまるか、と返すこともできず、不快に漏れるうめき声を飲み込んだ。
マウスピースで口を開きっぱなしにさせられているせいで、顎をつたって床に唾液が落ちていく。
「まあ、いいよ。いずれにしてもココをキレイキレイしてあげないといけないから、ね」
どうせ碌な事ではない。
ただ今は耐えて、耐えて、この場をやり過ごして、そして───何も無かったことにするしかない。
「……シリンジ」
眼鏡男が聞きなれない単語を呟くと、パンク男の靴が視界から消えた。
遠ざかる足音はすぐに消え、何かを漁る音が耳に届く。
「うぇー、オレそれ嫌ぇなんだよなあ!」
再び近付いてきた足音と、ビニルを破る音が聞こえる。
やがて、俺の視界にオレンジ色の管が垂れてきた。
「知ってる、コレ?身体の中を洗浄する時に使うんだよ。キミのココも、今からこれでキレイキレイしてあげるからね」
眼鏡男はウットリとした様子で俺の頬を撫でる。
「このままじゃ見えないだろう?さあ、仰向けになって……膝を抱えてごらん」
言われるがまま反転した視界には不気味なものがあった。
オレンジの管はただの管ではない、まるで灯油の給油ポンプのような構造をしていて、けれど無骨さが無い。
やわらなか曲線を描くそれは、逆に薄気味悪い。
さらに、バケツが二つ。
一つは空だが、もう一つは半透明の液からやわからかな湯気がたちのぼっている。
「大丈夫、キレイにするだけなんだから」
眼鏡男はうそ臭い笑みを顔に刷き、オレンジの管を液体に満ちたバケツに突っ込んだ。
反対側の管は案の定、俺の下肢に向けられる、嫌な予感がいよいよ現実となってきた。
キュフ、キュッと音がする。
管の中ほどにあるふくらみを引き絞ると俺の方に向けられた管から空気が吐き出される、オレンジの管の中をバケツから吸い上げられた液体が遡っているのは明らかだ。
ジュブッブシャッ───
「ああ、かかってしまった」
どろりとした液体が俺の萎えた性器に噴きかけられた、けれど眼鏡男は気にした様子もなく、鼻歌をうたいながら液を俺の排泄器官へなすりつけ、不躾に管を突っ込んできた。
「う…ぐぅ、ぁ、うぁああぁああああ!」
先細って挿入しやすい形状とはいっても、押し込まれる苦しさは耐え難い。
思わず悲鳴をあげた。
「ほうら、どんどん入っていくよ。フフフ……全部は入らないかな。でも飲めるだけ飲んでね。いっぱいあるから」
ドプドプと液が流れ込んできた、腸を逆流するそれは触感のない内臓だというのにありありとわかる。
「200ml入ったよ、飲み込みがいいねえ」
「キショクワリィ奴ぅ、オレぁヤニ吸ってくんぜぇ。ソレ終わったら呼んでくれや」
パンク男は気色悪い声でしなを作ってひとしきり笑い、ライターをカチカチ鳴らしながら外へ出て行った。
「300…………うん、もうすぐ400だ……。フフフ、お腹が少しポッコリしてきたかな。でもまだいけるよね?」
さらにペースを上げて液体を送り込んでくる。
何か分からない溶液に満たされた腹はギュルギュルと嫌な音をたてている。
「さあ、700mlだよ、アハハハ、お腹に赤ちゃんがいるのかな……大きいねえ」
「う…がァ……ふ、ぃぁああああ」
異常に膨れた下腹を撫でながら、男はうっとりとヘソを舐める。
舌をつっこまれて内臓を抉られるような痛みを感じた。
薄皮一枚で内臓と繋がるそこを守ろうと無意識に腹筋に力をいれ、そのせいでなおさら腹の痛みが増す。
「うーん、すごい。はじめてなのにもう1リットルだよ……一旦ここでとめるね。後でもう一回飲ませてあげるからね。ちょっとおあずけ」
「も…やめ……て、くれ」
腹が破けそうな痛みだ。
それなのに男は管を抜くと同時に自分の指を突っ込んできた。
一瞬液が噴き出して、思わず括約筋に力を込める。
結果的にきつく男の指をくわえこんだそこは、いつ決壊するともしれぬ地獄の苦しみを延長させてしまった。