チィチィ、と煩い鳥の声で目が覚める。
障子から冬のやわらかい陽が届く。
もぞもぞと起き上がった俺は、部屋の真ん中に敷かれた大き目の布団にひとりぽつんと座っている。
時計を見れば朝の7時前。
浴衣が肌蹴た内腿に一昨日の名残りの赤い痣を見つけてムムッと眉を寄せる。
昨夜は久々に何もせず寝たのだ。

冷えた空気を断ち切るように着替え、布団を押入れに仕舞って廊下に出た。
薄暗い廊下はなんだか息苦しい。
薄いTシャツ一枚だったけれど思い切ってガラス戸を開ける。
重い雨戸をゴトゴトと開けると――
「うわ……ぁ」
一面の銀世界だった。
ひゅぅ、と吹き込んできた風の冷たさにまた驚いて、急いでガラス戸を閉めた。

ひとまず洗面所へ向かって顔を洗う。
冷たい水に体も頭もクリアになる。
ついでに洗濯機を回しておいて廊下に出る。
「起きたか。」
居間に入ると台所に立つアーチャーが声をかけてきた。
「おはよう、アーチャー。」
「おはよう……よく眠れたか?」
頷いて台所を覗く。
アーチャーはしゃがみ込んで魚の焼け具合を見ているらしい。
「あ、美味そう……もう出来るか?」
「ああ、あと少しだな。……ん?」

こっちを見た顔を引き寄せて、その唇にちゅうと吸い付く。
逆らわず綻んだ口元に舌を這わせればアーチャーのそれが引き込むように俺を絡めとる。
昨日、魔力を渡せなかった分を補うかのように、深く引き込まれ蹂躙される。
「――ん。はぁ……で、何すれば良い?」
「茶碗の用意を頼む。」
「オッケー」
最後に口から溢れた唾液をぺろりと舐め取られて顔を上げる。

ほかほかゴハンを茶碗によそって居間へと運ぶ。
ブリの照り焼きを綺麗に盛り付けたアーチャーがお盆ごと寄越すのをまた運ぶ。
アーチャーは味噌汁を椀に三つよそって居間へと入ってきた。
一汁一菜に白飯というスタイルの今朝の食卓に加わるべき人物がもう一人。
「しろー、おはよーッ!」
玄関から居間までダッシュで来たのは藤ねえ。
「アーチャーさんもおはよう!」
「「おはよう」」
二つ重なった挨拶に反応を示すより先に藤ねえは定位置にズンッと座って箸を右手にコッチを見上げてくる。

「いただきまーす!」
俺とアーチャーが座るなり藤ねえが茶碗に手を伸ばす。
かつかつとゴハンを書き込む姿はまるで大人には見えない。
「んー、美味しい。今日はアーチャーさんだよね、焼き具合が丁度良いわ〜」
一方的に感想を述べつついち早くおかわりを叫ぶ。
「あ、俺が行くからアーチャーは食べてろよ。」
少し多めに注いだおかわりをふじねえに渡すとまたかつかつと勢い良く食べ始める。
ふと時計を見れば藤ねえはそろそろ家を出なければいけない時間だ。

センター試験が終わってからは受験期ということで3年は自由登校になっている。
推薦試験で志望校に受かった俺は合格通知が届いた11月から暇さえあればバイトに精を出していた。
それが新年明けて早々、弓道部前部長の美綴と現部長の桜に頼まれて……というか脅されて火・木・土曜の週3ペースで後輩の指導に行っている。
慎二が聖杯戦争以来弓道部を辞めてしまい、男子部員をまとめかねている状況を桜に相談されて3年になって一時復帰していた。
それも夏の大会が終わるまでで、約束どおり個人部門で優勝してからは受験に向けた勉強をしていたのだけれど。

「藤ねえ、時間は大丈夫か?」
「うぅ〜、行って来るー!」
咽喉に詰まったものをお茶で押し流して玄関へダッシュで走っていく。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。」
「弁当を……」
「あ、アーチャーさんありがとー!じゃあねー!」

嵐のように藤ねえが去って、ふうと両手を合わせる。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさま。」
食器は二人でさっさと片付けておいた。
ついでにピーピー鳴って終了を告げた洗濯物を干して朝の仕事は終了。

「何時に出る?」
会社に電話して休みをもぎ取ったアーチャーはのんびり、そうだな、と視線をテレビから時計に流す。
テレビは芸能人のスキャンダルで盛り上がっているらしい。
「そろそろ出るか。」
「わかった……何で行く?歩きか自転車か……」
「歩きで良い、急ぐこともないだろう。」

久々にスーツ以外のラフな格好でコートを着込むアーチャーに何とはなしに見惚れる。
身長があってガタイも良い、理想としてはかなり良いセンいってると思う。
対して俺はTシャツにボタンシャツを重ね着してジップアップのオーバーという簡単な格好。
横に並ぶとなんだか本当に自分が貧相で少し口惜しい。
「そんなに鏡を睨んでどうした?」
俺の気持ちには気付いてないらしいアーチャーが不思議そうに俺を見下ろす。
「むぅ……用意できたならさっさと行こう。」

朝9時過ぎの町は門の周りを掃除する奥さん方がよくいる。
「あら。士郎ちゃん、アーチャーさん、二人揃ってお出かけですか?」
藤村のお手伝いさんに声をかけられて会釈する。
「お早うございます。昨日が親父の命日だったんで墓参りです。」
「あら、偉いわねえ。切嗣さんもそれじゃあお喜びでしょう、早く行っておあげなさいな。」
藤ねえが生まれる前から藤村の家に住み込んでいるこのお手伝いさんは、俺も切嗣もまるで息子か孫というように可愛がってくれた人。
切嗣が亡くなって間もなくは週に何度かはうちに来て家事を手伝ってくれた恩ある人だ。

手を振られて振り返して、いってきますと告げて交差点へ向かう。
親父の墓は柳洞寺が山の裏手に所有する大きな霊園の片隅にある。
いつから用意されていたのか、藤村組に預けられていた親父の遺言書には墓はいらない、法要もいらない、と書かれていた。
流石に墓くらいはないと参る当てもないので、藤村と懇意にしている柳洞寺の住職に直に話をつけて貰って小さいながら立派な墓をたててもらった。
柳洞寺の参道階段を登っていくと、一年前の戦いを思い出す。
あの時、セイバーと遠坂、そして俺はここから死線へと向かったのだ。

「む、衛宮ではないか。」
山門をくぐった所で声をかけられた。
「一成、久しぶりだな。」
「まったく、10日ぶりというところか。」
柳洞寺と同じ宗派の大学への進学が決まっている一成はなぜか制服姿でいる。
「これから学校か?」
一成は深くため息をついて首を縦に振る。
「生徒会役員が全員インフルエンザになり先日から生徒会が全く機能していないのでな。全く、何かの呪いではないかと疑いたくなる。しかしそう言うお前はまた何故ここへ?」
「昨日が親父の命日だったんだ。」
「お前のことだ、アルバイトの忙しさにかまけて忘れていたのだろう?」
半眼で見られてズバリその通りで頬をかく。
「まあ、それでも参る気があるのであればそれで良し。最近は不信心な者が多いからな。まあ、帰りに親父殿に声でもかけてくれ。」
「おう。」
一成はそう言ってアーチャーに会釈して山門を出て行く。

秋口にようやく敷石や裏手の境内が元通りになり、今ここに聖杯戦争の痕を見ることはできない。
線香と供物用の花を買って、境内を回りこんで霊園の入り口へ向かう。
千を超える墓の立ち並ぶ中を歩いて行く。
ここへ来るのはほとんど一年ぶりだ。
前に来たのは聖杯戦争後、アーチャーと契約を交わした直後だった。
全ての報告を兼ねて親父に参って、そこで気を失った。
その次に気がついた時は布団の中でアーチャーに思い切り犯られている最中だった。

「ん……よく考えてみればあれ、強姦なんじゃないか?」
目が覚めた直後は痛いと叫ぶこともできないくらい痛かった……寝てる間にどうにかされたのか、血は出ていなかったけれど。
「何をぶつぶつ言っている。さっさと来い。」
水がいっぱいの桶を両手に持っているアーチャーが俺を振り返って文句を言ってくる。
「はいはい、今行くって。」
久々の墓はやっぱり薄汚れていて、二人でタワシを片手に念入りに掃除する。

一時間かけて砂を綺麗に落としてようやく息をつく。
カラカラだった花立てに水を入れて花を対に立て、煙がくゆる線香を線香立てにぐさりと挿す。
マッチを忘れた俺だったが、アーチャーがどういうわけか線香に火をつけてよこした。
英雄は火をおこすことができるらしい。

二人並んで手を合わせる。
「…………」
お経なんて知らないし、こういう時何を祈るのかわからない。
だから心の中でこの一年の報告をする。
アーチャーとはちゃんとうまくやってるとか、魔術の方はなんとかなってるとか、大学も無事に受かっただとか……。
一通り報告を終えてふと気になって横を盗み見るとアーチャーは真剣に手を合わせている。
「……どうした?」
「いや、凄く真剣だと思って。」
「当たり前だろう。お前とは上手くやっていると報告しているのだからな。」
なんか意外に普通ぽい返事にへぇ、と声が漏れる。
「そうなのか?俺も同じことを……」
「一年前はここでお前を貰うと宣言したわけだしな。」

「ななななななななななんだそれ!?」
「なが多いぞ、なが。」

「っていうか、貰うって何だよ!」
「そのままだ。去年ここへ来た時『お父さん、衛宮士郎は私が貰います。』と念入りに宣言したからな。」
「はあ?そんなの聞いてないぞ!」
「当たり前だ、私は衛宮切嗣に宣言したのであってお前に言ったわけではない。」
「いや、俺、いつアーチャーに貰われたんだよ!」
「いつも何も……始めからだ。」
「始めっていつだよ!」
「さあな。」
「なんだよ、訳わかんねーよ!」

わぁわぁと喚く俺をアーチャーは面白くなさそうに見る。
「お前は私のものではない、とでも言いたいのか?」
「いやだから……」
「ふぅ……私はとっくにお前のものだというのに。」
うわ。
眉を寄せてそれこそ悲しげな表情で俯くアーチャーは、俺が悪いと言いたいようだ。
「いや、だから、その……」
「お前の愛が感じられん。」
「あ、愛って……」
「おや、愛がないのに私に抱かれていたとでも言うのかね?」

じっと見つめられて頭がくらくらしてくる。
何を言いたい……いや、何を言わせたいんだろうコイツは。
「愛はないわけじゃない。」
「愛があるのかね?」
「そりゃ、ちびっとは。」
……大げさなため息が文字で書いたようにハァ〜とアーチャーから漏れ出る。
「情けのような微々たる愛……」
「なっ、別にそんな風に言わなくても良いだろ、察しろよ。」
「何を察しろというのだ。私には一向に届く気配のない愛をか?」
ジト目が怖い。
むぅ、と唇を突き出したところで、ちゅぅと音をたてて吸い付かれた。

「何するんだよ、こんなとこで!」
ババッと辺りを見回しても人はいない。
だからと言っていつ誰が参ってくるかもわからない墓場で。
「お前は周りの目を気にしてばかりで、私の気持ちに気付こうともしない。」
「何だよお前の気持ちって……ていうか、こんなとこで非常識だろう?」
「フン、常識などクソ喰らえだ。」
まるで何かをやり遂げたかのような晴れやかな笑顔でアーチャーはそう言い切った。
「な……何?もしかして怒ってたりする?」
「私が怒る?ははは、まさか!」
……少なくとも目は笑ってない。

「アーチャー、あのさ……なんでそう、顔を近づけてくるわけ?」
「いやなに、ここで一つ私の愛を骨身に染みるまで実感してもらわねばと思ってね。」
ガシッと音がしそうな勢いで両手首を左手に、頭を右手にロックされて思い切りディープなキスを仕掛けられる。
逃げる暇などあるわけない、相手はアーチャー、色ボケして腐ってても英雄だ。

まさかこんなことに発展するとは思ってもいなかった俺は逆らうこともできず、思い切り蹂躙される。
ぐちゅぐちゅと掻き乱されて、慣れた熱がぼんやりと生み出される。
アーチャーのキスは熱くて気持ち良い。
思わず綴じていた瞼を解いて少し狭い視野を取り戻した。
目の前のアーチャーはやっぱり見惚れるほど格好良くて、……周りには何故か石の大群。
「ん!んんんんんーーーーッ!」

「どうした?」
「は……ッバカ、親父が見てるとこで何するんだ!」
「親父殿も見てるとなれば燃えるだろう、ん?」
「誰が……って、ぁ、ちょっと、何勝手に進んでんだよぉ!」
アーチャー相手に心の中でバカバカと百回怒鳴ってやる……それはきっと倍返しで自分に降って来るに違いない。
なんだって、俺のソレはひょっこりと勃ちあがっているのか。
ジーンズのボタンとジッパーを難なく外したアーチャーの手がごそごそと直に触れてくる。
「んぁ、アーチャー、人が来るだろ!」
「問題ない、半径100m以内にヒトの気配はない。」

くちゅくちゅと響く音にもう死んでしまいたいくらい恥ずかしくなる。
何でこんなに反応が早いんだ。
にやにやと笑うアーチャーが先走りに濡れた手で俺の頬をなでる。
「十分その気だな。良いだろう、たっぷりと私の愛を注ぎ込んでやる。」
ツッコミを入れる気にもなれない。
無理やり立たされて腰を突き出した格好にさせられる。
手を付いているのは水をかぶってひんやりと冷たい親父の墓石。
ズリおろされたジーンズの中からむき出しになった臀部に寒風が容赦なく吹き付ける。

「さて、士郎……どっちが良い?」
「今更なんだよ!」
「一度イってから挿れた方が良いか、先に挿れた方が良いか……」
どっちにしても突っ込まれるなら早く終わるほうが良い。
「もう、良いからさっさと挿れれば良いだろ――!」
「ほう、そんなに私が欲しいか。」
うにうにと尻タブの狭間を押されて背中がぶるぶると震える。
熱い指がそこを押し開いて冷たい空気に触れさせる、やけに敏感なそこにしゃがみこんだアーチャーの吐息がかかるとそれだけで鳥肌がたつ。

「しかし、綺麗な色をしている……」
「なにがさ!」
「挿れられればあんなに吸い付いて放さない淫乱だというのに、見た目だけはまるで生娘のようだな。」
「え……あひぃん」
ぺろっとそこに湿った、しかも生暖かい感触が走って妙な声をあげてしまう。
「……お前の喘ぎ声は面白いな。」
恐らく真顔で言われたその言葉に頭の中がいろんな意味で沸騰してくる。

「ふん、次はもっと好い声で啼いてくれよ。」
「え、や……ひぁん、ちょとアーチャー……ぅんあ、ちょ……くぅ、んぁ」
尖った舌先が容赦なくそこを抉りにかかってくる。
ブルッと寒気が背筋を這い登り、頭をキンキンと痛める。
いや、頭に血が上って血管が破裂しそうだ。
「んーッ、ふぅ、ぅん、んああ、アーチャー!」
カクンと腕の力が抜けて、墓石の中台に額をこすりつける。
まるでアーチャーに尻を突き出すような格好だけれど、もうどうにもできない。

「ほう、今日はまた一段と締め付けが……キツイな。」
グリッと抉られたそこは、俺のいいところのすぐそば。
いっそ一思いに快感に飲まれてしまえばと思うのにアーチャーがそれを許さない。
「こちらも相当辛そうだな。毎日ヤっていたものを一日しないだけで……ほう、ガチガチではないか。」
ぬるりと根元から先端に向けて指を這わされてぶぢゅっと透明な先走り軽く吹き上げる。
「アーチャー、もう十分だろ!?」
「いや、今は何の用意もないからな。念には年を入れて解さねば、つらいのはお前だぞ。」
「だからって、いつまでもここで……」

不意に強い風が吹いて備えた花がざわざわと音をたてる。
顔を上げたそこには親父の墓……。
「衛宮切嗣もお前のこんなに成長した姿を見れて草葉の影で喜んでいるだろうよ。」
あからさまにあてつけられた言葉にカーッと顔が熱くなる。
幽霊なんてものは信じないけれど、サーヴァントのような例もあるわけでいつ何時どこで誰に見られているかなんてわかりやしない。
「んくぅ……ちょっと、ホントに、ダメだって……もう」
周りが気になり始めると途端に中のモノも気になり始める。
ぎぅ、と締め付ければアーチャーの指の動きが全て伝わってくるし、緊張を解こうとすればアーチャーの指が増えて中を更に拡げていく。

「なあ、アーチャー、早くしてくれって」
切羽詰っているのは雫を垂れ流しているものだけじゃない。
冷気に晒された下腹がシクシクと軋みを上げている。
そんな俺の状態を知ってか知らずか、アーチャーは中に突っ込んだ三本の指でぐにぐにとそこを拡げる。
下からひゅぅと冷気が滑り込んできてその辛さに涙が零れた。
「士郎、欲しいか?」
「あぁ、うん、だから……」
「言葉で言ってもらわねばわからんぞ。」
「ほ、欲しい……」
「どこに、何を?」
そんなことわかってるくせに――。
「俺の中に、お前のを突っ込んでくれって」
ぴたりとアーチャーのそれが下の口にあてられる。
「くふぅ……早く」

「欲しければ、私と衛宮切嗣と、どちらが大事かその口で言ってみろ。」

「ふぇえ……?」

ぼんやりとした頭でアーチャーの言葉を反芻する。
一体、どうしてここで親父とアーチャーを天秤にかけろと言うのだろう。
次元が違う。
比べるまでもなくどちらも大事な存在だ。

「同じ……だよ」
「……またそれか。」
「何さ、本当だから仕方ないだろ。それより、アーチャー!」
無意味にそこを拡げる指はただ苦しくてたまらない。
ヤるならやるで、さっさと終えてしまいたい。
もしもアーチャーのセンサーに触れず誰かがここに来たらと思うとぞっとする。

「お前は与えられるばかりで与えることを知らんのか。」
「アーチャーが何を言いたいのかわからないからだよ。」
「では聞き方を変えよう。お前にとって一番の人間は誰だ。」
一番?
何の一番……?
「お前のここをこうやって抉るのは誰だ――私だ。お前の底のない欲を満たせるのは誰だ――それも私だ。お前にこうやって触れるのも」
「あぁッ」
「お前をいやらしい声で啼かせることができるのも私だ。」
シャツに潜り込んできた指がきゅっとピンッと立った乳首を弄ぶ。
じれったい熱が体の中で出口を求めて彷徨っている。

「お前をどうにかできるのは私だ。お前にとって私以上の存在が他にあるか?」
「ん――ない!だから……」
早く欲しいのだと訴えてもアーチャーの熱は俺の入り口を指と一緒に弄るだけ。
ひくひくと蠢くそこはもっと熱くて硬くて太いものを欲してくちくちと音をたてる。
「お願いだから、もう、気が……狂う」
濁る先走りが墓石にびちびちと吹きかかる。

男に擦られ、扱かれ、穿たれることに慣れた体はもう大丈夫だからと必死に訴えている。
「士郎……」
耳元で囁く、低く擦れた声に背中がぞくぞくする。
アーチャーのこんな艶に満ちた声はいつだって俺だけに向けられたもの。
耳たぶを這う舌がぬちゅ、といやらしく音をたてる。

「士郎……」
熱い吐息が首にかかる。
オーバーの襟から除く俺の襟足にきっと所有刻印を赤く残しているに違いない。
「アーチャー……」

「俺には、お前だけだから……お前が一番大事だから、くれよ……」

こくりとアーチャーの咽喉がなった。
腰を掴む手に力が入って、俺の中に熱い猛りがめりこんでくる。
体位も場所もいつもと違うせいか、アーチャーのものが硬く太く感じる。
「んむ…ぅふあぁ――」
俺が一番弱い場所をぐりっと圧迫されて、体が目に見えてビクビクと震えた。
カリを少し過ぎたあたりまで埋め込まれたところで一度腰を引かれて、ぐじゅ、音が漏れる。

「美味そうに咥えている……」
アーチャーの言葉に顔がカッカッと火照ってくる。
左の乳首をぷつぷつとつめ先で弾かれてなんとも言えないもどかしさが体の中に沈殿する。
「お前のココは居心地が良い、ヒクヒクと私を締めて、とろけるように熱くて……飲み込まれそうだ」
吐息で語られるそれは耳元を擽り、俺の脳みそまでどうにかしそうなくらい熱っぽい。
じゅぷ、ぐじゅ、ぬちゃ、にゅぷ…………
山なのに鳥の鳴き声すら聞こえない。
時折の風の葉擦れに混じって、水っぽい音が俺とアーチャーの間から聞こえる。

両手と額を墓石に擦りつけ、アーチャーに腰を突き出す。
グッと深く潜ったそれは俺の中に危険な種を植え付ける。
アーチャー無しではいられない、そんな危険な種だ。
その種は一つきりじゃない。
この一年にもう数え切れないくらい……そして俺の中にしっかりと根を張っていて、引き抜けば俺ごと壊れてしまうに違いない。

「アーチャー……アー、チャー」
きゅうきゅうとナカがうねる。
アーチャーがそれに反応して汗ばんだ額を俺の頬に寄せる。
アーチャーの限界も近い。
どくどくと先走りを俺の中にまぶして、俺をナカからアーチャーのものに塗り替えていく。

「アーチャー、呼べよぉ――」
無理やり肩越しに振り返れば、間近の瞳がゆらりと揺れる。
欲情して熱っぽく充血した目で俺を見つめる。
「士郎……」
「もっと」
「士郎……ッ」
「足りない、そんなんじゃ…ァ」
「士郎……士郎――」
「あふぁ、あ、アーチャ、ぁあ――……」

「士郎、士郎――!」
俺の名を呼ぶ合間にアーチャーが吐息だけで俺に囁く。
「お前だけが……」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ……
「私の全てだ――」
どくどくどく――――ッ

注ぎこまれるものの熱さと、囁かれた言葉の熱さ。
その両方に侵されてびゅくびゅくと吹き出るものを抑えることも忘れていた。
頭がぼうっとなって目の前で白い光がちかちかする。
ビクン、ビクン、と体が断続的に震えて、そのたびに白い雫がプチュッと吹き出て親父の墓を汚す。
ぬら、と垂れていくその白い軌跡を見つめて、ゆっくりと瞬きをする。

ぎゅっと抱きしめられた腕にもたれて、体を起こす。
まだヒクヒクと蠢くそこからじゅる……といやらしい音をたててアーチャーが抜け落ちていく。
ぷるんと重力に従ったそれは俺との間に濃厚な白い糸をひく。
やがてそれも切れると寒さを急に思い出してブルッと震えた。
アーチャーがポケットから出したティッシュでそれを拭い、墓石に腰掛けるように体をひっくり返されて俺のものを舐めて清める。

だるい体をアーチャーにもたれさせて、まるで子供のようにジーンズを穿かされる。
身づくろいを終えるとアーチャーに抱き寄せられてその胸にすっぽりと埋まる。
そしておもむろに杓子を持ったアーチャーは……バシャン、と景気良く墓に水をぶちまけた。

「コイツは俺のだ、残念だったな……親父」

自分の声に良く似た、けれど少し低く擦れた声。
初めて聞く気取らないアーチャーの声。
傍らを見上げれば穏やかに笑んでいて、乱れた髪にどことなく自分との共通点を見る。

「あんたの夢だけを追っていた衛宮士郎は、もういないぞ。」
自慢げに言ってみせるそいつがなんだか可愛くて、背後に腕を回して逆手にアーチャーを抱きしめた。
ふわりと赤い何かが目の前を横切って、辺りを見回す。
ざぁあ、と音がして強めの風がアーチャーのコートの裾をはためかす。
それと同時に紅に近いピンクがそこここに降り注いでくる。

「寒緋桜か……」
見上げたそこに、俺たちを見下ろすように花をつけた見事な7分咲き。
さっきのはこれだったのかと思うところでアーチャーが抱き込むように顔を寄せてくる。
「さっき言ったことに偽りは無いだろうな?」
ふと、最中に口走ったそれを思い出して顔がまた熱くなる。
「嘘なんか言えるかよ。」
「そうか、良かった。」

ざあ、とまた風が吹いて花びらが宙を薄紅に染める。
「はぁ……親父、驚いてるだろうな。」
「今頃はもう喜んでいるかもしれんぞ。」
「バカ、あんなの見せられて喜ぶ親がいるかよ。」
ニヤニヤ笑うアーチャーは、さてな、と呟いて俺のつむじに顎を乗せる。
アーチャーに抱き込まれたまま合掌瞑目して、手を繋いで誰もいない墓場を歩く。
こんなことをしてしまっては気恥ずかしくて当分ここには来れそうに無い。
親父に会いに来るのはまた来年の同じ頃だろう。

だから、親父の墓が見えなくなるギリギリのところで振り返った。
「また、来年な。」
絡めたアーチャーの腕に顔を寄せて、馬鹿な話をしながら霊園を出て行く。
冬晴れの空にうすく雲が乗っかっている。
「あと三日で春か……」
去年の今頃は季節の変わり目を感じることもできなかったけれど。
見上げた青い空に目を細めて、傍らを歩く男に笑いかけた。

1月31日、月曜日。
天気は良好、時折南から強い風。
春を目前に控えて気温も上昇中。 め