(弓子士前提)オリキャラ×子士郎:オリキャラ・失禁・強姦



それは、考えうる限り、男にとって天職だった。

一般に教師が聖職であるという概念は崩れてしまったといっていいだろう。
どこぞの学校では教師が生徒に対して敬語を使わねばならないという逆転現象もあるらしい。
子どもに手をあげれば即ち大人が悪で、それでいて家庭が負うべき責任まで教師にひっ被せる時代。
果たしてその時代が男にとって良いかはともかく、教師という職に男は満足していた。
男が性癖を隠しさえすれば、そこでは優秀な教師という評価を得られた。
その評価を男は斜に受け止めていたが、自ら翻すつもりもなかった。
児童性愛者(ペドファイル)であることを自認していたが、児童性犯罪者(チャイルド・マレスター)に落ちぶれるほど常識を逸することを善しとはしていなかった。
男は児童性愛者である以前に、教師としての使命を胸に佩びていた。

男――ここでは仮に田中としておこう。
田中は某大学の教育学部を卒業し、母校であるその小学校へと赴任した。
はじめの一年は臨時採用だった……というのも、その前年度に冬木市を襲った災厄によって多くの人命が失われ、学校という機関も生徒と教師、両方を失って深刻な状況にあった。
田中が職を得られたのはひとえに県外の大学に通っていて、最終考査の再試験にかかっていたからだ。
それでなければ適当に内定をとっていた地元企業へ就職するため、早々に冬木の街へと戻ってきていたに違いない。
結果的には、県外にいたおかげで被災者のうちに数えられることなく、あまつさえ臨時とはいえ希望の小学校の教師となったのだ。
一年後、男は本採用となった。
男にとってそこはまさに天国と言う他なかっただろう。
別に少年少女をひん剥いて性的な悪戯をしようとは思わないし、その輪の中にあるだけで幸せだった。
まだ若く、そして快活な田中は自然と児童に人気となり、休憩時間には子どもたちに手を引かれ運動場へと導かれることも度々あった。

そんな男は今年、漸く担任を任されることとなった。
臨時の引率的な意味合いの強い副担任とは違い、数十の児童を一手に引き受けるその立場は、教師としての使命を未だ抱いている青年にとって満足を与えるものであったに違いない。

少なくとも、そうなる筈であった。

 

今は少子化の時代、1クラスにつき児童が30名をきるということもまま珍しくない。
田中が受け持つことになったのは27名の少年少女だった。
上学年である為顔見知りの児童も多く、幸先が晴れているように見えたのは仕方ないことだろう。
教師としての絶対的な経験が田中にはまだ少なかった。
いつも通りの精悍な笑みを湛えて自己紹介をした田中の脳内には、この素晴らしい少年少女と一年を素晴らしく過ごす為のプランに満ちていた。
当然その中にはイレギュラーなどない。
全ては上手くいく―――そこには一点の曇りも無かった。
そうして春を向かえ、田中が本当の意味で教師の道を歩み始めて間も無く、深刻な問題を抱えることとなる。

新年度恒例の家庭訪問は順調に進んでいたが、約一名だけ、何度催促しても希望日時を提出しない児童がいた。
やや正義感が強いきらいはあるものの素行はまずまず良好。
友達は多くも少なくもなく、異性同性隔てなく親切で、教師に対してもどちらかといえば従順な少年だった。
昨年度の担任からの申し送り書も田中の印象とそれほどかけ離れている物でもなく、何故この件について頑なに拒むのか判じかねていた。
しかし決まりは決まり、家庭訪問を済ませてしまわなければ田中自身のプライベートな時間も削られていくのだ。
「おい、衛宮ー、いるか?」
学年ごとに与えられる担任用の教材室を出て、教室に入ると、入り口から大きな声で呼んだ。
2時間目と3時間目の間にある20分の大休憩中ではいないかとも思われたが、名前を呼ばれた少年は少し訝しみながら素直に教師のもとへとやってきた。
「何、先生……」
やや言葉足らずだが、愛想が無いわけではない。
単純にコミュニケーションが下手なのだと田中は認識していた為、さして気にせず手招きして教材室へと導いた。
大人しくついてくる少年、衛宮士郎もややあって教師が言わんとすることに気付いたのか、居心地悪げに敷居を跨ぐ。
「お前もわかってると思うが、家庭訪問な……もうお前だけなんだよ。親御さんも忙しいとは思うが、先生もできるだけ都合をつけるから、どうにかならないか?」
毎度の言葉に少年の表情が曇る。
別に同じような反応をする子どもは他にもいた。
これくらいの年になると親の過干渉をうるさく思ったり、はたまた親の職業や都合を慮ってということもある。
家庭に問題を抱える子は少なからず他人の家庭への介入を拒むし、この少年もその類かと思われたのだが、どうも様子が違うとようやく思い至る田中であった。
貝の殻に篭ったように無言を貫く少年に、田中はこれみよがしなため息をついてみせた。
途端に衛宮士郎は申し訳なさそうに項垂れる。
根は素直なのに……どうしてこうも拒絶するのか、田中は好奇心を擽られないわけでもなかった。
ただ、今は教師としての勤めをまっとうすることが先、そう思いなおして少年に椅子を勧めた。
「なあ、衛宮。先生もお前に嫌がらせしようって言うんじゃない。ただ決まりでな、担任はみんなの親御さんと話しをしなきゃいけないんだ」
少年の視線に合わせて少し前かがみにそう言うと、ようやっと視線を上げる気配。
「お宅に伺うのがまずいなら、こっちに来てもらうのでも構わん。それくらいの融通は先生もこの際考えよう」
その言葉に少年は小さく首を横に振る。
「衛宮ぁ、そりゃないぞ。アレも駄目、コレも駄目じゃあ先生も困るんだ」
「……無理、なんだ」
「じゃあ、わかった。今からお宅に電話してみる。直接親御さんに聞いてみるから、それで良いだろう?」
ぴくり、と一瞬身を硬くしたのは傍目にも分かったが、男は仕事だととりあえず割り切って電話に手を伸ばす。
名簿を捲っていくとすぐに少年の名前が見つかる。
横には父親らしい同姓の名前がある。
この平日の午前ならば留守ということもあるかもしれないが、念のためだ、と思い田中は外線ボタンを押した。

コール音は無機質に連なる。
10コールを数えたところで諦めようと思っていたが、9コール目でそれは途切れた。
『――はい、衛宮です』
「あっ、あの、わたくし、衛宮士郎くんの担任をしております田中と申します」
やや間があって、電話に出た男の声が硬質なものから人間味をおびた色に変わった。
父親というにはやや若い印象を覚える声に違和感を覚えつつ、隣にいる少年に視線をやると特に感慨もなさげに窓の外を見ている。
大休憩だからこんなところにいるより、友達と外で遊びたいのだろうと教師は結論付けて電話に集中する。
おざなりの挨拶の後にいよいよ本題となる。
「それでですね、4月から児童全員を家庭訪問していたのですが、衛宮くんだけ希望の日時を告げてもらっていないのですよ。何度か話を聞いて、今しがたも聞いていたのですが埒が明かないので、申し訳ありませんがお電話させていただいた次第でして――」
『あの子が?……いえ、こちらではそのような話は全く伺っておりませんでした。申し訳ありません』
電話口でもわかるくらいに深々と謝られて慌てたのは田中だった。
「いいえ、いえ、あの、謝っていただくほどでは。私も初担任でして、まだ児童から信頼を得られてないのだと思いますし」
取り繕うように言うと横から少年が服を引っ張った。
無言のまま首を振るということは、田中の言葉が違うと言いたいのだろう。
やや呆れながらも、電話は繋がったままなので意識をそちらに戻す。
『お話はわかりました。それでは……そうですね、私の方はいつでも大丈夫ですので、先生のご都合が宜しい時にいらして下さい』
「え、いつでも良いんですか?お父さんのお仕事の都合とか―――」
また、田中の服を引く気配。
同じように首を振る少年におや、と思う。
電話の向こうでも苦笑するような声が聞こえた。
「え……っと、お父さんではなくお兄さんでしたか?」
『血の繋がりという意味では近親者とでも言いますか。少なくとも親子や兄弟という関係ではありませんよ』
流石にこうなれば怪しむ以外にない。
少年がいる手前開くことをためらっていた、申し送り書の詰まったファイルを開く。
田中が目を通していたのはあくまでも昨年度担任からの申し送り書の表面のみで、それ以外は読み流すにとどまっていた。
ファイルには入学関連書類の写しから毎年度の担任の申し送り書まで全てが揃っている。
それを逐次見ていった男の目に飛び込んできたのは入学時に提出された書類にあった「養父、衛宮切嗣、他家族無し。」との表記だった。
養父というからには直接の血のつながりが無いのかもしれない。
「えーと……衛宮……キリツグさん?」
『いいえ』
「え、でもそれじゃあ―――」
完全に混乱した田中に電話口の落ち着いた声が聞こえた。
『私は衛宮切嗣の親戚にあたり、現在は衛宮士郎の後見人をつとめている者です』
「……はぁ、そうでしたか」
事情はわからないが込み入った事情があるのだろう、そう結論付けて田中は少年の前でこれ以上の話はすることなく、家庭訪問の日時だけを取り交わして電話を切った。
「今お前も聞いてた通り、今日の放課後行くからな」
怯えるとか不貞腐れるといった表情の変化はないまま、少年は俯いたまま頷き、田中に促されるまま教室へと戻っていった。
教材室に一人残った男はタバコに火をつけ、少年に関する書類を捲る。
担任からの申し送りに関しては毎年同じように書かれているだけだ。
曰く、弱いもの虐めを止める為にやや強引な手段に訴えることがあるとか、協調性がないわけではないが独断で行動することがままあり集団から外れてしまうことがあるとか。
そういったところはむしろ田中にとっては好ましい。
むしろ、自由奔放でありながら正義を見失わない、田中にとっては理想的な少年といえる。
それがどうして、ああも頑なな拒絶をするのか―――興味をそそられた。

その日の放課後は終わりの会が終わるなりさっさと荷物をまとめ、教室を出ようとしていた少年を呼び止めた。
「えーっ、せんせー、遊んでかねーのかよ!」
いつもサッカーをしているグループのボス格男子が不満そうに言うのをあしらって、教師を待たずに教室を出て行った衛宮士郎の後を追った。
「おい、衛宮。友達にバイバイの一言もないのか、お前は」
「終わりの会で言ったからいい」
「そういうもんじゃないだろう?」
集団での慣習的なその挨拶だけで済ませるのは、円滑な友人関係に水をさすというものだ。
田中は数歩先を歩く少年の身体を観察しながら追う。
教師を初めとする他人を家に入れたくない子どもというのは、家庭に何らかの問題を抱えている場合が多い。
例えるならば家庭内暴力……だがこの少年は健康そのもので、体育の着替え時でも少なくとも見える範囲にそのような痕は見当たらなかった。
ならば親……片親だったり、親が夜の商売をしていると、この頃になるとそれを隠したがる者もある。
しかしそういう風でもないあたり、やはり「後見人」を名乗った男に原因があるのか、と考える。
その方がしっくりと馴染む気がして、田中は前を歩く少年の様子を注意深く見守った。

やがて、町並みの様子が変わり、近代的な団地から古風な屋敷が建ち並ぶ辺りへと入る。
住所からこの辺りだろうとは思っていたが、意外にも大きな家々ばかりの光景に田中の歩が鈍る。
そしていかにも厳つい門構えの家が見えてきた時、まさかここではなかろうかと門柱を覘いたが、あいにくそこには藤村との表記しかない。
しかし、この辺りで藤村といえば有名なやくざ屋さんで、係わり合いになりたいものではない。
門の前を素通りしたことに安堵した田中だったが、また長く続く塀の切れ目の門が見えてくると流石にどきりとした。
今度こそ間違いなく衛宮の表札がかかっている。
「お…おい、衛宮、ここなのか?」
「―――そうだけど」
門をくぐれば綺麗に整備された純和風の庭。
受け持ちの児童の家の中にはこれほど大きく、そしてよく手入れされたところはなかった。
自然と泳ぎがちになる視線をどうにか堪えてインターフォンに手を伸ばすが、それは少年に制された。
「ああ、そうか。お前の家だったな、スマン」
笑いが引きつってしまうのも仕方ないだろう。
今更ながら「後見人」とやらがわざわざついているこの少年の身の上について、ぐるぐると考え始めたところなのだ。
こんなに広い家を綺麗に維持する為には毎日相当の手入れが必要な筈だった。
到底親子二人だけで手が足りるものとは思えない。
「ただいま」
「お、お邪魔します。士郎くんの担任の田中ですが……」
少年はさっさと靴を脱いでいる。
かといって自分までも上がってしまうのは気が引けてそのまま突っ立っていると、靴を収めた少年がそのままスリッパを取り出し、田中の目前に並べた。
今時珍しいくらいに躾けされた少年だ、と思う間も無く、奥から出てきた男に面食らった。
「早かったな士郎、着替えて居間へ来なさい」
少し諌める色を込めた男の声に少年は肩を竦めて見せて、振り返らないままに右手に廊下を折れて行った。
「不便なところでしょう、ご足労いただき有難うございました。アレのことですから、相当手を焼いたでしょう?」
「いえ、そんなっ、全然!今時珍しいくらい躾けの行き届いてる子だと思います、ハイ!」
電話で聞いたのと寸分変わらぬ声は、どう見ても日本人とは思えぬ風体の男のものだった。
褐色の肌はもっと赤道に近い国のもののようで、色素の薄い毛や瞳はまるで日本人のそれと一致しない。
いくら外国人が多く混血も多い冬木の街とはいえ、これは流石に異相としか言いようがない。
「驚かれたでしょう、こんな成りですから」
居間へと案内されて開口一番にそれでは流石にばつが悪い。
どう答えたものかと思考をめぐらせる間にお茶を出される。
良いものを浸かっているとわかる色味と香りに、一口啜ってから素直に感嘆を漏らした。
「美味い……」
「そんな、粗茶ですよ。淹れ方には少々コツがありますが―――士郎、こちらに来なさい」
いつのまにか着替えて来たらしい少年にそう言って、保護者然とした男もまた田中の正面に座った。
「この子の後見人で衛宮アーチャーと申します。見ての通り外の血が入っておりますが、戸籍上はこの子と親戚関係にあり、士郎の養父であった衛宮切嗣の遺言によって後見を任されております」
「え、ちょっと待ってください。遺言って、お父さん亡くなられ……」
言いかけて口を噤んだのは、俯いたままの少年がそれに触れられたくなかったのだと男が思ったからだ。
果たしてそれが正しいかはともかく、アーチャーと名乗った男は頷いてお茶を口に運ぶ。
「二月ほど前のことです。役所の方には届けておりますが、式は密葬、他へは極力他言無用とのことでしたので。昨年度のPTA役員の方にも内密に願っておりました。保護者の切り替えについては新年度に行っておりますので、まだその旨が通知されていなかったのでしょう」
男の言にはなるほどと思うこともあり、田中は素直に言葉を飲み込んだ。
実父ではないとはいえ、たった一人の家族であった養父を亡くして間もないのであれば、家庭に対して保守的になっても仕方ない。
頷いてから、遅くなりましたがお寂しくなられまして、と形式的に頭を下げた。
それからの話はよくある確認や子どもに関する世間話に終始した。
それは田中が深く立ち入ったことを聞かなかった為もあるが、一言も話さない少年の様子が気になったからでもあった。
少年はあからさまに、教師をこの家から早く追い出したいようであった。
漸く暇を申し出た教師の言にようやく顔を上げたほどだった。
「それじゃあ衛宮、また明日な!」
くしゃり、と少年の頭を撫でると驚いた顔で田中を見上げ、続いて小さな声で返事を返した。