いつか見た夢の欠片を 大事に 大事に しまっておいた
胸の奥底 誰にも触れられぬ そこに しまっておいた


時は流れ 風化しかけた欠片をそっと拾い集める指
誰にも触れられぬはずのそれを 一つ一つ丁寧に

崩れてしまった欠片は 夢に戻ることは無いけれど

拾い集めた少年の胸には 確かに
私がしまっておいた 見えないように隠してしまった
その夢が 綺麗な形のまま
残っていた


「夢か……」


形を成さぬまま、漂いながらそう思った。
残る魔力はもうわずかばかり。
もう一度実体化すれば、二度と後戻りはできない。
まどろみに似たそれは霊体化した時独特のもの。


―――夜明け前。

朝霞にけぶる街がゆうるりとその輪郭を、漏れる淡い光に照らされている。
薄ピンクの空に光が届く。
刻限はもう間近。
ぐっと掌に力を込める。

ほんの一日やそこらだというのに、肉を持つ己の体が酷く重く感じられた。
きち、きち、きち……筋肉の軋みがまるで剣の嘶きのようだ。
溶解炉がフル始動し、残る魔力全てを注ぎ込む。


己がクラスはアーチャー。

この手が射る矢は、間違いようも無く敵を射抜く。
そして同時に私はこの場を去らねばならない。
So as I pray...... そう、だから私は祈る。
少年が、間違った道へ進まぬように。
願わくば「私」になってくれるな、と。


弦を引き絞る。
照準は英雄王の額、右手の力をそっと抜くと直線の起動を描いて矢が放たれる。
冷たい朝の空気を音速で駆け抜けるその摩擦で、空気中の水分が光の軌跡を残した。
幾重にも覆い隠した心に残る僅かな未練をあざ笑うかのように……。


少年の目が私を捕らえる。
あどけない表情を残す双眸がぎりぎりまで見開かれて、くしゃりと崩れた。

蜘蛛の糸のごとく、細く繋がる想いを断ち切ろうと、私は目を閉じた。
日が昇り、背中から陽を受ける私を貫いて、光は少年の下に届く。
抉れた境内の砂を踏みしめる音さえ軽い。
地面に倒れ付した少年の横に膝をつく。
「よくやった……」
血に固まる髪の毛を梳いてやると泣きそうな顔で笑った。

少年はぼろぼろで血にまみれた手をそっと重ねてくる。
じんわりと伝わる熱に、断ち切れない未練を胸の内で笑う。
するりと抜け落ちた少年の手から視線を引き剥がし、立ち上がった。
「せいぜいしぶとく生き残ることだ。」
その言葉を最後にしようと、私は空を見上げる。

僅か残った魔力を解き、流れる空気に身を委ねた。