正午もとうに過ぎた夕刻前。

薄暗くなってきた空を障子越しに感じつつ私は盛大なため息をついていた。
散々たる有様――うむ、正しい形容だ。
居間の座卓の周辺に屍のごとく倒れる少女3名、少女の域を過ぎた女が1名、そして己を除いては唯一の男が1名。
密閉された空間の中、ストーブの灯油とアルコールの臭いが立ち込めている。
「んわー、もうダメー、これ以上はバターになるぅ〜」
トラ柄のシャツを愚かにもこよなく愛する女が、みっともなく寝言を叫ぶ。
「サクラは私がつれて帰りましょう。」
気配を感じさせず現れた細身の女はそう言うが早いか、一人の少女を抱きかかえて居間を出て行く。
間もなく玄関の戸の音が聞こえ、間桐桜とライダーがこの家の結界外に出て行くのが感じ取れた。
残ったのは藤村大河、遠坂凛、その使い魔であるセイバー、そして我がマスターである衛宮士郎の4名。
その周辺に散らばる色とりどりの瓶と缶、どれもこれもことごとく空だ。
それらを一つずつ地域指定のゴミ袋へ分別しつつ片付けていく。
言葉は必要ない。
ただ、手を動かすのみ。
あらかた片付いたところで、固く絞った布巾で座卓を拭く。
こぼれたつまみやゴミ、飲み零しなどを全て綺麗に消し去る。
「このくらいにしておくか。」
ウンウンと唸るようなそれぞれの寝息に眉間に皺が刻まれるのは鏡を見ずとも明らか。
「ほどほどにしておけと言ったのを聞かんからだ、馬鹿者。」
本人達が意識がない状態でなら何を言ったところで構わないだろう。
客間から毛布と上掛けを3組を持ち出す。
それぞれを少女達の上にかけてやり、もう一度ため息をつく。
『しろ〜〜〜、きょぉは無礼講なんだからぁ、飲まなきゃらめなのよぉ〜!あ、あたひのお猪口どこー?』
『シロウは私の酌では飲めないと……?』
『セイバーさん、先輩には私が注ぎます!はい、先輩。』
『何よ桜、アンタ注ぎ方がなってないわよ。日本酒ってのはね……』
『…………』
『おじーさんが作ってるドブロク持ってきたの。しろーも飲むよねー?』
『あ、先生!先輩には私から注ぎます!』
『だから、左手をちゃんと添えなきゃ作法に則ってないでしょ。士郎、初口はぐいっといきなさいよ!』
『失礼、そこのスルメを取って下さい、アーチャー。』
『……私はスモークサーモンを。』
『アーチャーさん飲んでへも反応おもしろくなぁいー、しろ〜、飲んでるの?』
『姉さん、邪魔しないで下さい!』
『邪魔じゃないわよ、作法のなってない妹に手本を見せるだけよ。ね、士郎?』
優柔不断。
誘いを拒めない。
そして女の勢いに負ける。
せっかくあのビルの上で良い雰囲気になったというのにだ。
帰ってきてみれば居間にちゃっかりと上がりこんでいた女が5人。
「明日が年初の礼射式でしょ?だから今日は部活はお休みー。さあ、士郎!飲み比べしましょー!」
藤村大河を筆頭に遠坂凛、セイバー、間桐桜、ライダー……。
十歩譲って新年の挨拶だと考えても、手に手に携えたアルコール類は明らかに何かの挑戦のごとく私には見えた。
予想通りの宴会騒ぎに発展した後はひたすら私は台所に立ち賄いをするだけ。
……左腕に抱えた少年を乱暴に、少年自身の部屋へと運搬する。
ぞんざいな扱い方で構うものか。
あらかじめ敷いておいた布団へ放り投げても、「うっ……」という呻き一つでまたむにゃむにゃと寝言を言う。
鈍い。
「起きろ、起きんかたわけ!」
ピシピシと頬を叩いてようやく目を覚ます気配を見せる。
「ぅ……うぅー、うぁー?」
まるで犬のようだ、言葉をなしていない。
半眼の私を見上げた目はすぐに細められる。

「あーちゃー?」
ごろりと寝返りしてうつぶせたかと思えば、そのまま匍匐前身のように這い始める。
「あーちゃーのバカやろぉー!何でふじねーや、とーさかたち止めてくんなかったんだよー!」
腰に縋るように抱きついて来たかと思えば、ぺしぺしと畳を叩く。
「自業自得だ。酒を断ることくらい自分でしろ。」
「断れるかよー、こあいんだぞー!」
力いっぱい抱きついているつもりなのだろうが力が全然入っていない。
ホカホカと酒で火照ったからだが、腰にじわじわと熱を知らせる。
腹の辺りにある顔は良いとして、口からだらしなくもたらされる熱い吐息は股間に別の物を呼び覚まそうとする。
「布団に入ってさっさと寝ろ。どうせ朝は二日酔いで起きることもままならんだろうからな。」
「あーちゃー一緒にねるぞぉ?」
「私は私の部屋に戻る。ほら、布団に戻れ。」
「やだぞ、絶対あーちゃーと一緒に寝るんだ。」
酔っ払いは図体が大きい分、子供よりタチが悪い。
わきの下に手を入れ布団へ突っ込んでも、その手と両足がナマケモノのように私にぶら下がる。
「こら、いい加減にしないと怒るぞ。」
「怒ったらダメだぞ、なかよく寝るんだもん。」
……だもん?
ここまで酷く酔う姿を見るのは初めてだが、幼児退行するのか、コイツは。
痛むこめかみを押さえつつ、ぶらさがって楽しそうに笑う少年を引き剥がしにかかる。
「放さんか、馬鹿者。あまり聴きわけが無いと襲うぞ!」
ピタリと動きが止まった少年にヤレヤレと目を閉じる。
大人しく離れた体がズドンと布団に落ちる。
呻きながら起き上がるのを見て体を起こす。
「体を冷やさぬようちゃんと布団を……待て、貴様何をしている!」
「おれを襲うんだろ?」
服を脱ぎ散らかしていく少年を止める前に、自分の心の中で黒い影が囁きかけてくる。
『こんなに積極的な態度が今まであったか?』
――いや、ない。
だったら本人にその気があるうちに美味しく戴いてしまった方が得策。
「意味がわかって言っているのか?」
「わからないわけないだろぉ?エッチするんだろ、えっち。」
お前バカじゃないか、と言いたげな目に口の端がヒクリと痙攣する。
「ほう、珍しく乗り気だな。いつもは男に掘られてなるものかと酷い拒みようだというのに。」
「それは、おまえが変なとこでエッチしたがるからだ、バカ!嫌いでもないやつとヤらないぞ、おれは!」
プンスカと怒る表情で座ったまま、難しそうに最後に残っていた下着を足から抜いてぽいっと投げる。
「えっちしないのか?」
「して欲しいのか?」
「何だよ、人がせっかく脱いだのに。」
脱いだのは貴様が勝手にしたことだと反論したいのだが、誘われて拒むほどの甲斐性がないわけではない。
それでなくても魔力は常に欠乏していて毎日ヤっても良いという程だ。
「わかった。しかし後で文句は言うなよ。」
「いわないさ、あーちゃーとするのはイヤじゃない。」
嬉々として私の服を脱がせにかかるのが物珍しく、されるがままになっていてやる。
「いいカラダだよなぁ」
シャツを脱がせられながらウットリと囁かれて、正気かと心配になる。
「鋼のようなカラダって、おまえみたいなのを言うんだろーなぁ」
普段なら絶対に聞けないその言葉に、悪い気はしない。
胸筋に腹筋、側筋と撫でられていく先にあるベルトのバックルに手がかかる。
おぼつかない手つきでカチャカチャと外されていく。
シュルッと一息に抜かれたあとは、一拍を置いて、そっとジッパーに手がかかる。
しかしそこで動きが止まった。
「どうした、怖気づいたか?」
「ちがうぞ……!」
すぐに否定されて、そしてジッパーのあたりをしげしげと眺められる。
そしてふにゃふにゃと一人で笑い始め、悪戯を思いついた子供の目で私を見上げてきた。
「いつものしかえし、してやるからな」
ベルトの上留めボタンが外される。
しかしその先はなく、手が離れていく。
酒気に上気した頬がペタンと腿に当てられ、その熱がやわやわと伝わってくる。
そのまま見上げた少年はまたクスクスと笑い、ねだるような目で私を見つめていた。
やがて笑うことに気が済んだのか、顔を起こすと私の両腿にそれぞれ手を置いてきた。
何をするのかじっくり見ていてやろうじゃないかという気持ちが私を無言にさせる。
「ふふ……はぁ、は……」
奇妙な笑いを漏らしたかと思うと、少年が私の股座に顔を突っ込んでくる。
腰を引こうとする前に、ヂリヂリというジッパーが下げられる音。
見下ろせばジッパーの金具を歯で引きおろしているらしい。
下まで引きおろされたそれの中に平静を保つ自身が納まっている。
「ああ、なんか凄くドキドキする」
そろりと伸ばされた舌が掠めるようにそっと、アンダーの上からそれをなぞる。
そのくすぐったさに力が入ると、気付いた少年はまた私を見上げ、すぐにまた笑いながら顔をうずめる。
綺麗に治まっているそれを柔らかく食んで、舌や唇でそろそろと刺激してくる。
まどろっこしい刺激に、私自身が目を覚ましたらしい。
熱が吹き込まれたそれに気付いたのか、また少年は私を見上げる。
「これやるのって……楽しい」
おかしなことを言い出すのは酒のせいなのだろうか。
元々この少年は、殊に色事には後ろ向きかつ消極的なのだ。
まさか、酒ごときでここまで変わってしまうものだろうか。
本気で少年の気が違ったかと心配する前に、アンダーから引き出されたそれに熱を感じて思考が停止した。
「はむ……ん……んふ……んちゅ」
熱が流れ込み半勃ちのそれを片手で支え、先端から満遍なく唾液をまぶしていく様はいつも私がしているのと同じ。
模倣してやっているあたり、この少年の色事に対する知識の少なさがわかる。
「んあ……んぅ――、んちゅ……ちゅ…」
口の周りをベタベタと唾液と他の何かで汚しても意に介さない様子でフェラチオに没頭している。
ちゅぷ、と音をたててやっと口を離されたかと思えば、今度は根元の方を横から食まれる。
そして不意に見下ろせば、ジッと見つめてくる目にぶつかる。
「……ッ」
いつもとは逆に私が赤面すれば、また少年は嬉しそうに目で微笑む。
「ん、はぁ……あむ…んちゅぅ……んんッ」
カリ首を尖らせた舌でグリグリと撫でられ、鈴口は丹念に舌と唇で吸い上げられる。
熱い咥内は柔らかく私を包み込み居心地が良い。
ズンと熱を持って重くなる腰が吐精を求めて疼き始める。
「んちゅぷ……ふぅ」
てらてらと光る口元を赤い舌がぺろりと走る。
「腰、上げて」
そのままアンダーとズボンが引き下ろされて、またポイと投げられる。
そして間髪入れず自身に手が這わされ、袋にぬめった熱い舌が触れる。
時おり鼻先に触れる毛がくすぐったいのか、むずがるように唸り声を上げる。
「ん……あーちゃーの、大きいよな」
文字通り目と鼻の先でしげしげと見つめられてそういわれると、どうにも返しようがない。
「お前は私よりは小さいがな。」
「む、おれまだこれからせーちょーするし!」
会話が続いても、くにくにと手は動いていて私を刺激し続ける。
「まあ、せいぜい成長するよう努力することだな。」
「しないよ、そんなどりょくなんか……できないよ」
「は?」
プチュ、と先端に唇で軽く吸い上げられ、尋ね返す言葉が消えた。
「あーちゃーいっただろ、おれのくらいが咥えるのにちょうど良いって」
確かにそんなことを言った気がしないではない。
「せーちょーするのはしかたないけど、むりに大きくなりたいとは思わない……あーちゃーに舐められるの好きだし」
何気に、凄いことを言われたような気がするのは……気のせいだろうか。

熱くなる顔。

左手で口元を覆ってしまってから、自分の口元がにやけていることに気付く。
「あーちゃーのくらい大きいと、たしかに……顎がちょっと疲れる」
言葉どおり口を離した少年は私の足に頭を乗せ、目の前のそれを楽しそうに弄っている。
「はぁ……」
空いた手で口から顎へ伝う雫を掬いチロチロと舐めているのを見ていると、背中が痒いような、妙な気になる。
「お前は?」
促すと、そろそろと膝立ちになって見せる。
私と同じかそれ以上に反り返ったものが、少年の腹と股とを濡らしている。
「舐めるだけで感じていたのか?」
首を縦に振るのを見て、やれやれという仕草をしてみせる。
「舐めて欲しいか?」
少年の目がトロンと蕩け、腰をかすかに揺らすだけで透明な雫が跳ねて私の胸に散ってくる。
促して布団の上に横になり、私の顔を跨がせる。
すると意図を理解したのか、少年はまた私のそれに口付ける。
目の前に揺れる、年の割りに鮮やかな色のそれを捕まえ咥内へ引き込んだ。
「ひぁぅ……うん、ぁ、あーちゃー!」
少年に語ったように、このくらいの大きさであれば口に含んだとしてもそれほどの苦ではない。
慣れたその形を確かめるように舌を這わせれば少年の腰がピクピクと跳ねる。
それを押さえつけるように腰を捉え、尻たぶを掻き分ければぴくんと動きが止まる。
「ふちゅ……あーちゃー」
恐れと期待の混じった声が漏らされ、思わず苦笑する。
捕まえたそれを引き寄せ、舌を這わせる。
舌先で軽く突付き、ふちをぐるりと舐め、さらに指に力を込めて割り開き襞をひとすじずつ丁寧に舐めていく。
気を紛らわせるように私のものを音をたててしゃぶる少年は次第に右へ左へと腰をくねらせ始める。
それも腕に力を入れることで強引に拒み、湿り気というには過ぎたそこに指を宛がう。
「息を吐けよ」
腿にあたるか細い吐息を感じながら中指を第一間接まで挿入し、そのままグニグニと指先と舌でほぐすように揉みこむ。
「ん……フゥ……ぁ」
隠す様子のない吐息が肌を擽り、少年が何を感じているのかがわかる。
もう少しだけ指を潜り込ませたところで内壁のしこりを探ってやるとキュウと締め付けて放さないとでも言うようだ。
「ん…ん、ふぁ、もっと……」
私のものに頬擦りするように悶えながら、素直に望みを口にする。
その通りに人差し指も加えて容赦なく弄ると少年の腹筋がヒクヒクと痙攣し始める。
「どうした、もう射きそうなのか?」
「うん、も……イく、ダメ、よすぎる……ッぁ、ぁんあ――ッ」
グッと力を込めて指で抉ると鈴口がピクピクと痙攣した。
すかさずそれを口に含めば濃厚な精がびゅくびゅくと吐き出される。
「はあぁ……ぁ――」
音をたてて飲み干し、さらにきつく吸い上げるとビュクッと最後のひと絞りが吐き出された。
荒い、鼻にかかった喘ぎが私のものに吹きかかる。
そのまま咥内に導かれ、私も萎えようとする少年のそれを許さないように吸い上げた。
しっとりとした汗がつっと伝ってきてそれを舐め上げる。
そうした不意の行動に少年はいちいち嬌声を上げる。

「あーちゃー、おれ、だめか?」
両手と口で丹念な愛撫をする少年はそれだけで十分な刺激だ。
それを堪えるのもかなりの気力を使うのだが、少年の言葉はまるで私に出せと言いたいようだ。
「だめではない、しかし無理はするな。」
「ムリじゃない、おれだって……おまえをイかせてやりたい」
そう言いながら根元の茂みを舌で掻き分け薄い皮膚を探る。
その感触に思わず緩みかけるストッパーをギリギリで押さえ、少年の中の指を奥へと捩りこんでやる。
「ひぁ……はぁん……あ、あーちゃー、ごまかすなよぉ」
性急に扱き上げる手もおぼつかない様子で私の足に置いた反対の手で体を起こし私を振り返る。
しかしそれは私に尻を差し出すようなもので、蟻の門渡りを舌でスッと舐め上げただけで勃ち直ったそれからトロトロと腋が溢れる。
「ふぅ……ッ、きいてんのかよ!」
私の足に額を擦りつけながら少年は切羽詰る声で私に怒鳴る。
「ああ、聞いているとも。」
クチュ、と音をたてるそこは私の指の動きに合わせて収縮を繰り返す。
「はぁう……ぁ、そこ―――」
指を曲げればしこりに当たり、その度に少年はとろとろと透明な雫を溢れさせる。
しつこく弄ってやればまるで射精と見紛うほど大量の腋を私の腹の上に零していく。
私のものをしゃぶっていた口はただただ熱い吐息を漏らし、手はシーツを頼りなく引き寄せる。
止まらない快楽の波に捉われているのだろう。
「士郎。」
「ぁは……ふぅん…あッ」
「士郎――!」
ぺちっと尻を叩いてやればのろのろと顔を上げて虚ろな眼差しで私を振り返る。
ぐじゅッと音をたてて指を引き抜いてやれば両手でシーツを引っ掴んで全身を振るわせた。
「な…にさ、あーちゃー。もっと……」
先をねだる駄々っ子に呆れ半分、邪な期待が半分。
黙る私に不満そうな顔で体の向きを変えてくる。
「おーい、あーちゃー?」
ほわほわとしたつかみ所が無く上気した頬は、酒気によるものか快感によるものか判然つかなくなっている。
しかしどこか舌っ足らずで、甘えを隠さず顕わにするのはやはり酒の名残だろう。
くにゅ、と自分と少年のそれが擦れる感覚に一瞬目を細めると、少年は満足そうに笑って私の胸に顔を押し付けてきた。
「やめるのか?」
そう訊ねて目の前にある私の鎖骨に口付けてくる。
「――止めたくないのか?」
「だって、まだたりないぞ……」
上目遣いに不満を漏らす顔がやけに幼く見えて思わず苦笑が漏れる。
「あーちゃーもだしてないし、たりないよな?」
「まあな。」
くにゅ、くちゅ―――身じろぎして肌が擦れる、自然と勃ちあがったものも擦れて粘着質な音をたてる。
「じゃあ、なんでださないんだよ……」
くしゃりと顔を歪めて、責めるように私を見る。
「おれだって、あーちゃーをよくさせてやりたいのに、がまんなんかするな。」
―――ズクン
「おればっかりされるのはふこーへーだ」
真っ直ぐ見つめてくる熱っぽい視線に、熱い濁流が腰に溜まっていく。
「おれだってなぁ、おまえがスキなんだぞ」
―――ズクン、ズクン
「なあ、なんとかいえよ……」
口付けられて、目を閉じた。
少年が自ら、初めて求めてきたキスは熱く――激しい。
合間に漏れる吐息ひとつひとつが私を求めていると語りかけるようで、切ない。
口蓋を舐め上げられ、舌を吸い上げ、溢れた唾液を追って唇を咽喉へ滑らせる。

ぽたり……。
胸に落ちた熱い雫の正体がわからず見下ろす。
赤茶けた頭頂を撫でる。
少しだけ顔を上げるその目から、ぽたり、ぽたりと零れ落ちる。
指でそれを拭っても、拭っても……止まることは無い。
「……まったく」
ため息交じりの言葉を少年はどう解しただろう。
他者の幸せを願い、いつでも自らを振り返らず、ただただ空っぽな夢を持ち続けていた少年。
その少年が誰でもない、私を選んだ。
私という存在に執着を見せた。
『衛宮士郎』となって初めて欲したもの、それが私だった。
一度は受け入れたというのに、その後での私の態度はそれこそ少年の唯一からの拒絶ともとれたかもしれない。
「お前には負ける……」
グス、と鼻を鳴らした少年は赤く充血した目で私を見上げる。
「好きにしろ。」
暫し呆と私を見ていた二つの目がゆっくりと見開かれる。
二度三度瞬いたそこから涙が一粒、滑り落ちる。
そろそろと体を下ろしていく少年は、先ほどまでの楽しそうな雰囲気とは違い、神妙な顔付きで私のものを眺めていた。
触れるのを恐れるようにそっと添えられた手指に続いて、控えめに舌が這う。
擽るようなもどかしい刺激にさえ、私は自制を解いてなされるがままになっていた。
襟足に手をやり、生え際や耳を擽ってやると舌がぎこちなくなる。
やがて先端の方からゆっくりと咥内に導かれていった。
先ほどと変わらない熱を持ったそこは、まったりと私にからみついてくる。
咽喉の奥を突くそれを眉を寄せながら吸い上げ、舌と手で余すところなく扱かれる。
腰の燻りが次第に溢れ始める。
私はくしゃくしゃと少年の短い髪を掻き乱し、少年は上目遣いに私を見遣った。
視線に誘われる。
顔を上下に揺らしながら、少年の目は必死に私を求めていた。
「ハ……」
限界が近い。
咽喉でつぶれた吐息は、荒々しく私の口から漏れ出る。
先走りが溢れて少年の口元がべたべたと汚れていく。
少年の目がもう一度私を映し、ゆっくりと瞬いて――際奥へ引き込まれた瞬間、咽喉が促すように私を締め付け、私は逆らうことなく熱を吐き出した。
「ッ……ケホ、ク…ケホッ」
半ば飲み込みかけたところでむせたのか顔をあげる。
顔にビュクッと白濁がかかるが、しかし少年はそれを瞑目して受け入れる。
しばらく目を閉じて吐露の余韻に浸り、そしてもう一度少年を見る。
顔にかかったものを拭うこともせず、虚ろな眼差しで荒い息を零す。
赤い舌がチロ、と下唇を走って顎に伝う精を舐める。
そして私を見るとだらしなく微笑んでみせる。
だるそうに上げた右手で顔に飛んだそれを掬い、綺麗に舐めていく。
最後の雫を舐め取り、チュパッと音をたてて指を離す。
ふと落とされた視線に続いて目を落とす。
少年の手の中でまだ熱を持っている私のものを眺め、少年はわたしをじっと見た。
そろりと腰を上げて、私の上に四つんばいに這う少年と触れるだけのキスをする。
「な、あーちゃー」
「……何だ?」
「このまま、したい」
ずり上がってきた少年の尻たぶがやわやわと私を刺激する。
既に十分な硬さを取り戻しているそれは、後腔を掠る度に粘膜と共に水音をたてる。
「あーちゃー……」
「わかった、お前に任せよう。」

少年の笑顔は今までに無いほど充実したものだった。

私のものに手を沿え、バランスを取りながらゆっくりと腰を下ろしていく。
薄く目を閉じて、細く長く息を吐き、熱くうねる壁の中へと私を導く。
ようやく鰓張ったカリを飲み込み、大きく深呼吸をすると間髪おかず最後まで飲み込んでいく。
少年のナカは熱く脈打ち、時折痙攣を起こしては、私を絡めとるようにやわやわと絡み付いてくる。
「……ッハぁ」
苦しそうな喘ぎが聞こえ、宥めるように少年の腰をなでる。
しっとりと汗ばんだ体に手が吸い付くような錯覚に捉われる。
俯いた少年の額から落ちた汗が私の胸を滑り落ちた。
赤い顔をして、それでも満足そうに私を見下ろす。
感触を楽しんでいるのだろう、それに呼応するように少年のナカが私をほどよく締め付ける。
「ん――ッ」
ゆるゆると腰を持ち上げてペタンと尻餅をつく。
それを何度も繰り返す。
元より酒気に中てられた少年の手足は力が入っていない。
崩れ落ちないよう腰を支えながら下から不規則に突き上げてやれば、押し殺さない喘ぎがあふれ出す。
「ア…はぁ、ん―――ふぅあ……ひぁんッ」
奔放な痴態をくまなく観察しながら、少年のものを扱いてやるとナカが面白いほど波打つ。
「ぁ――あーちゃ、おま……なに、わらって――」
笑っているつもりなど無かった。
「あ、くずす…な……よぉ」
眉を寄せると途端に不満を訴えてきた。
「あぅ、んぁあ―――こら、なにす……る」
ぷくぷくと先走りを吹くそこを指先でグリグリと刺激してやれば、仰け反りながら喘ぎを漏らす。
その瞬間、まるで奥へ誘い込むようなうねりが私を襲い、思わず低くうめき声を上げてしまった。
知ってか知らずか、少年はそんな私の様子を嬉しそうに見ている。
心底、嬉しそうだ。
腰を揺さぶりながら、少年は私の唇に口付ける。
軽い触れ合いがジン、と熱を伝えてくる。
「……アーチャー」
荒い息の狭間に吐息で語りかけてくる。
「アーチャー、好きだ」
切実という表現がしっくりとくる、その懇願に近い言葉に倒れこむ少年をきつく抱き留める。
少年の中に荒々しく吐き出す熱と、少年と私の間で爆ぜる熱。
どちらもが偽りの無い本音だ。
「ああ、私もお前が好きだ、士郎――」
漸く萎えたそれを眉を寄せながら引き抜いていく表情は扇情的だった。
反応しそうになるのを堪えて、離れないまま抱き合う。
間に散った迸りを掬う少年の手を取り、指の一本一本を綺麗に嘗め尽くす。
「ずっと、アーチャーが好きだから。」
「ああ。私も、未来永劫、お前だけを愛するよ。」
体を駆け巡る熱はきっと少年からもたらされた魔力だけではない。
「士郎―――」
「ん?」
「私は幸せだよ……」
驚いた顔で私を見た少年はくしゃりと笑って私の胸に顔をうずめる。
「俺もだよ。」
ぎゅっと力を込めて抱きついてくる体を感じて、私もきつく抱きしめる。
「さっきも、今も――そうやって幸せそうにおまえが笑ってるなら、俺にとってそれ以上の幸せなんか無いさ。」
どろどろのシーツを洗わなければだとか、いつ酒気が抜けたのかだとか、風呂に入らねばならないとか。
そんな無粋なことは今は思考の外に置いておく。
戯れに口付けを仕掛け、その瞳に私だけを映し出す――そして幸せそうに微笑む少年を抱きしめる。
「なあ、アーチャー。」
「ん?」
「指輪だけどさ……」
「ああ」
「とりあえず、あと3ヶ月だけは待ってくれ。」
「どういうことだ?」
「お前へのお返し分が要るだろ、だから3ヶ月。」
「そんなこと気にせん。」
「それだけじゃないって。」
「何だと言うんだ?」
「3月になれば学校も卒業だろ?そしたら、堂々と着けてられるから。一成に見つかったら絶対に校則違反とかでどやされる。」
「成る程な……」
では、あと3ヶ月の間は密やかに二人だけの秘密であれば良い。
その後は私が手ずからお前の左手の薬指に嵌めて、誰にも憚らず見せ付けてやろう。
そう言うと少年は、衛宮士郎はふんわりと笑って―――幸せそうな満面の笑みで――
「お前が望むのなら、それで良いさ。」

そう言って、二人で小指を絡めた。